『あびゅうきょ作品集U あなたの遺産』(幻冬舎バーズコミックススペシャル)
新聞はGWで朝刊のみ。それもなんか紙面がさびしいですねぇ。メーデー休暇の長い中国と日本以外の世界は通常通り動いているんでしょう(?)けど,国際面も普段の半分以下。新聞社がお休みモードなんでしょうか。
それにしてもイラクでの米軍の所業。おぞましい話が次々と出てきます。近所の知人の一人など「米軍が劣化ウラン弾を使用しているというのは単なるデマ」だと強硬に主張していますから,自分の思い込みに合致しない情報は反対側の耳から抜けていっている。今回のニュースもすぐに世の中から忘れられさられていくんでしょうね。まあ自分にもそういう面があるという反面教師にすればよい,なんて言い草は人が悪いのでやめておきますが。
で,マンガの話。
幻冬社コミックスからバーズコミックスペシャルの一冊として『あびゅうきょ作品集U あなたの遺産』が2月に出ています。87年刊行の『彼女たちのカンプグルッペ』と95年の『JET STREAM MISSION』を合冊した復刻本です。『彼女たちの…』の頃は,「プチ・アップルパイ」(for Girl だったけ?)で,リアルタイムで読んでいたのですが,『JET...』は初見でした。
『彼女たちのカンプグルッペ』は,一言で言えば戦争マンガの短編集。ただし少女たちが普通に戦士として戦っている世界での話です。舞台は先の大戦時の日本やヨーロッパ戦線,68年のメコン・デルタ,ベイルートからのしがらみを引きずったまま帰国した85年の東京,近未来の東シナ海,などなどです。今読み返してもあの時代の空気を思い出しますね。
『JET STREAM MISSION』は今回初めて読んだのですが,いやぁ面白い! 大戦末期の冬から始まります。主人公は,日本列島上空の成層圏を行くジェット気流とボーイングB−29スーパーフォートレス。狂言回しは,米軍側が,天候観測や着弾確認をするテニアン島のB−29偵察部隊の一員であるサムエル・ミラー少尉と,新任将校(報道部士官)のロザリー・ウェンザー少尉。日本側は,勤労女子挺身隊の一員として風船爆弾の製作に従事していた18歳の沢村風子。未知だったジェット気流の存在をともに予言していたミラーとウェンザーとのテニアンでの出会いから,迎撃機の攻撃を受け富士の裾野に降下したウェンザーと帰省していた風子との出会い辺りまでは,ジェット気流に魅せられた三人の物語です。しかしその間も徐々に神話と交じり合っていた語り口が,意外な結末への導入だったんですね。
で,「あとがき」です。『作品集U』には,『JET...』の初版当時のあとがきを再掲した後,2004年2月の日付のある書下ろしのあびゅうきょ氏のあとがきが付いています。うまく要約できないので,少し長いですがその一部を:
『彼女たちのカップグルッペ』を執筆した(引用者注:84〜87年)頃は,まだ日本にも理想的未来を夢想できる希望があった。大卒の就職率はほぼ100%。「フリーター」や「引きこもり」など,その言葉すら存在せず,(中略)米ソ両大国による冷戦は続いていたが世界平和の理念には現実感があり,それなりの説得力に満ちていた。国家利益よりも人類共通の理念が優先できた最後の時代とも言える。
だから作中の主人公(中略)も戦争を否定し平和を願う無垢な少女として描くことが出来たのだと思う。だが,1990年初頭のバブル経済と,その崩壊によってこの日本がどうなったか,今更説明する必要もなかろう。邪な勢力による世界一極支配の絶望下では世界平和や反戦を謳うことは愚かしい偽善と化してしまった。
と,引用させていただいたのは同感する部分があるからですが,しかし「一草一木にも…」という感性を失ってしまった現在を最後に「自業自得」と言い捨てられるとちょっとたじろぎますねぇ。